タタの魔法使い
2018年のラノベ。学校丸ごとファンタジー世界に飛ばされてしまった高校生たちが、みんなで協力する術を覚えて帰還を果たす話。
最大の特徴は、学校全員で飛ばされたという点だ。
一般的に言ってこのジャンルの王道は、『ゼロの使い魔』や『リゼロ』のように主人公だけが飛ばされるパターンだと思う。このパターンでは新しい世界での出会いが主軸になる。
それに対して『タタの魔法使い』では既存の人間関係を持ち込んでストーリが始まる。これにより彼らは、今までどれほど大事な仲間に囲まれていたか再確認することになる。
この小説は英雄譚ではない。冒険のカギは、ずばり組織力だ。
ファンタジー世界に飛ばされた学生・教員たちには様々な試練が襲い掛かる。その難易度も絶妙である。基本的に1,000人規模の集団として正しく対処すれば何とかなるような問題しか起きない。
しかし残念ながら、序盤では全員であたふたしている間に数百人の死傷者を出してしまう。
そこから組織として成長していくことに感動できる。
シン・ゴジラに近いかもしれない。
ここでいう組織力とは、数人の仲良しグループの信頼関係のようなものではない。
1,000人規模の集団としての成長を描いた物語だ。
例えば、
- 各自の個性をどのように把握できるか
- 連絡をどのように取り合うべきか
- もっとも戦闘力が強い人をどこに配置するか
など、様々なテーマで好奇心をそそってくる。
面白かったのは、校長先生の扱いだ。
この校長先生は、序盤に悪手を連発して大量の犠牲者を発生させてしまう。まあ、はっきり言って無能な人だ。そういう描かれ方をしている。
それでも、この集団は責任者に何をさせるべきかを学習することができた。そこで一気に潮目が変わり組織として安定し始める。
もし学校が丸ごとファンタジー世界に飛ばされたらというifを楽しめる素晴らしいラノベだ。
世界の果てのランダム・ウォーカー
2018年のラノベ。強力な科学を持つ大国セントラルから、文明の劣る国々を調査するために派遣された二人の調査官が、さまざまな出来事を通じてセントラルの謎に迫る話だ。
キノの旅に似ているというレビューが多かった。確かに似ている。
奔放な上司の女性と、皮肉屋な部下の男性の二人組で、部下の男性のほうが語り部だ。
この男性、普段は上司の悪口ばかり言っているくせに、困ったら泣きつくところがかわいい。ナイスコンビだと思う。
面白いことに、強力な科学を持つ大国セントラルは、その存在自体を文明の劣る国々に秘密にしている。寝首をかかれるからという理由らしい。
なのでこの二人の調査官は、自分たちがどこから来たかを秘密にしなければいけないし、
すごく便利な科学道具を持っているが人前では使えないという縛りが生じている。
終盤、部下の男性は上司の女性と離れ離れになってしまう。
頼りの綱を失った状態で見せる彼の成長が見どころだ。
オーバーライト――ブリストルのゴースト
2020年のラノベ。イギリスのスプレーアート界隈を描いたラノベだ。スプレーアートというのはシャッターとかにに落書きするアレだ。珍しい舞台設定だと思う。表紙を見てもラノベとしてかなり異色の作品だとわかるだろう。
主人公は日本からの大学生で、そこで元伝説のスプレーアート師と出会い、行政との摩擦や派閥抗争に巻き込まれるなかで、界隈の歴史と掟を学んでいくというシナリオだ。
スプレーアート界というものに興味が沸く、面白い作品だった。著者の実体験をもとに書いたらしい。
インフルエンス・インシデント
2021年のラノベ。
人気インスタグラマーなショタをストーカーから守るために、平凡な女子大生が頑張る中で、人々の心の闇を見つめていく話。
導き手になる白鷺玲華教授がエキセントリックでいいキャラしてる。
序盤では『無垢な男の子』として描かれるインスタグラマーが、徐々に『アブないヤツ』に思えてくるハラハラ感が良い。
最終的には女子大生が拳で解決。蘭姉ちゃんかよ。
オリンポスの郵便ポスト
2017年のラノベ。テラフォーミングが頓挫し、地球に見捨てられたた火星が舞台。そんな火星で郵便配達員として働く少女が、機械の体を持つおじさんをオリンポス山の頂上まで配達する話。
飄々として浮世離れしたおじさんと突込み役の常識人系少女のコンビは、まるでドラマ『相棒』の右京さんと亀山君のようだ。
郵便配達員が主人公の小説だけあって、所々で手紙ネタで泣かせに来るのが憎い。ヴァイオレット・エヴァーガーデンとか泣いちゃうもんね。
この火星は見捨てられた土地だ。ギャング組織などもはびこっているし、もちろん組織の中の人々も丁寧に描かれる。
正義側であれ悪役であれ、一人一人がこの地で生きる意味をひたむきに探している様子に胸を打たれる。
キネマ探偵カレイドミステリー
2017年のラノベ。天才的な頭脳を持つが絶対に部屋の外に出たくない映画ヲタクが、映画の知識をもとに町の事件を次々と解決する安楽椅子探偵モノ。ワトソン役である大学生が語り部。
実在する様々な映画に言及されるが、見たことなくても大丈夫。
ラノベで大学生の男コンビが主人公というのはちょっと珍しいかな? この天才映画ヲタクはハウルのように超神経質な人なのだが、彼の挙動が面白い。
君と僕との世界再変
2018年のラノベ。原題が『オーウェルによろしく』だったらしい。典型的なディストピア小説のフォーマットをとっている。人間の価値が数値化された世界で、ただ一人数値がゼロである主人公が、生活のために町の汚れ仕事を請け負う中でこの世界の真相に迫る話。
世界観設定が上手いね。
葡萄大陸物語 野良猫姫と言葉渡しの王
2019年のラノベ。放浪の身になった主人公が、王家に雇われ、その家のお姫様に好かれる話。
お転婆を通り越して野生児味があるお姫様と、そのお世話役の女性の絆が美しい。
お姫様、いつもわがままばかり言っているのに、お世話役の女性が侮辱されたらキレて暴れ散らかすんだよ。
そしてそんな二人と主人公のかかわりも面白い。
そういえばこの座組、ハヤテのごとくと一緒だな。
ただのラブコメかと思いきや、「大国に囲まれた弱小なこの国をどうやって存続させるか」をかけた頭脳バトルが本当にアツい。
豚のレバーは加熱しろ
2020年のラノベ。まあ、僕がお勧めしなくてもすでに人気だけど。アニメ化されるらしいね。
ファンタジー世界に転生したらブタだったっという設定。
この時点で出落ちじゃないかと思ったが、そこからのストーリ展開がしっかりしていた。
主人公は、全く人を疑わなない無垢な少女と出会う。
彼女をとある場所まで旅させることができれば元の世界に戻れるかもしれない、という流れ。
純粋な少女の代わりにひたすら目に映るすべてを疑い、手を尽くして旅を成功させるシナリオは秀逸。
文章も非常に読みやすい。
ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒
2021年のラノベ。これも大人気だね。本屋さんで面陳列されてるもんね。
電索官という刑事みたいな職業の女性が、相棒であるロボットとともに難事件を解決する話。女性の方が語り部になっている。
高慢チキな女性と、彼女を掌の上で転がすロボットの相性が抜群で面白い。
かなりSF色が強く、ストーリーにあんまり関係ないところまで設定を練りこんでいる点も好感。